ファイナルファンタジーⅤをノベライズすることに挑戦してみます。
ゆっくりでも完結させられるといいなと思います。
加筆・修正等は随時。
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ムーアの大森林。大地の何分の一かを占めるこの広大な森林は、人を拒む固い意志をもった賢樹たちによって成っている。賢樹たち、と書くが、彼らは多数の木々であると同時に、ひとつの意思を共有した巨大な融合体であり、中枢に樹齢一万年を超す「大賢樹」を置く一大情報ネットワークシステムである。
大森林の木々は苗木のときから徐々に根を大地に、葉を空に張り巡らせ、世界中の情報を風と大地と水から取り込む。情報はすべて大賢樹に送られ、それらが選択と整理の後、再びすべての木々に行きわたる。いつしか木々は成長とともに、その意識を大賢樹と同調させ、ついには融合を果たす。
人間はまずこの大森林に入ることができない。生い茂る植物が道を阻み、無理に切り倒そうとすると災難が降りかかる。近隣の村の人間はそれを知っているからこそ森に分け入ろうとはしない。あるとき遠方から訪れた木こりが「お宝の山だ」と森に割って入ろうとしたときには、体中を殺人蜂の針で膨らせて森の入口に転がった。木々は人間という存在を、情報ネットワークのノイズとして頑なに拒んでいる。それは大賢樹の意思で、同時に森全体の意思である。
この森に生まれた一本の苗木があった。彼–あるいは彼女なのかもしれないが、便宜的に彼と呼ぼう。彼もまたムーアの大森林に根を下ろす一本の若いネットワーク末端にすぎなかったが、彼はたまたま、大森林の最も外側にその命を芽吹かせた。そのことは彼がほかの木々に遮られずに、自分の根や葉を外界に向けて伸ばすことを可能にした。好奇心の強かった彼は、大賢樹のネットワークに同化するより前に、自身で情報を得て、自身でそれを吟味するようになった。彼は積極的に外界の情報を、特に近隣に住む人間たちの情報を取り入れた。
そして次第に彼は狡猾さを増した。表向き大賢樹のネットワークに同化するように見せかけ、その実自分に興味のある情報は自分の元に取り置いた。大賢樹が情報選定の際に取り除く「感情」の情報を、彼は積極的に取り入れ、愉しんだ。
だから彼は、他のどの木々たちよりも大森林の外界、ことに人間たちの情報に長けていた。世の中にどんな善があり、そして悪があるのか、ずっと年上の木々よりもよく知っていた。木々はそんな彼を良くは思っていなかった。しかし、若気の至りと強く気にも留めなかった。彼は学んだ。根と葉から送られる賢樹たちの知識も、人間たちの知識と心も。
あるとき、彼の中に小さな情報が飛び込んだ。彼の伸ばした根と枝のネットワークがつかんだ、彼だけに影響した小さな感情の情報。今となってはその感情が何だったのかを知る者はいないが、この小さな情報が、彼と、そして世界を取り巻く大きな物語を作る最初の一歩だった。彼はその情報を吸収し、そしてほかのどの樹にも渡さなかった。その情報は彼の中で次第に大きさと強さを増し、そして彼もそれを受け入れた。
そこに彼の誤算があった。これまで、彼がとりこんできたすべての情報は、意思を持ってはいなかった。彼にとって情報は従順で、選択される対象にすぎないものだった。しかし、このとき彼が取り込んだ情報は、大森林における彼自身の如く、その内部に自律した意思を隠していた。だんだんとその情報が彼を支配し、彼という存在を塗り替えていく。彼は次第に自分が侵され、消えていく恐怖にとらわれた。そこで初めて、彼はほかの木々に助けを求めた。
彼に起こった事態を知った大賢樹とった手段は、彼の追放だった。彼を森のネットワークから外し、被害を最小限に抑える。このことは、これまでにも森のある樹木が病んだときには行ってきた手法で、そして森のすべての木々には、追放される覚悟が備わっていた。融合しひとつになったネットワークにおいて、自分が滅することで森が生き残ることは、すなわち自分が生き残ることと同義である。この「切り離し」は大森林の最大限の優しさであった。
しかし彼は元よりネットワークには参加しているように見せかけていたにすぎない。彼にとって追放されることは生存ではなく滅亡であった。十分に人間の感情を吸収した彼は、大森林がとった彼の滅亡という選択に大いに苦しんだ。そして、いつしか彼は、まるで人間が誰かを逆恨みをするように、自分を追放する選択をした大森林を憎むようになった。
彼を蝕んでいた情報は、彼のこの憎しみにすかさず付け入った。情報は彼に森への復讐を果たす自律と自我を提供し、そして彼はそれを手に入れる代わりに情報の望みを果たすことを約束した。約束が果たされたとき、彼はもう彼ではなくなっていた。彼を塗り替えた情報と一つになり、全く新たな存在となった。自律を得て、情報の持つエネルギーを取り込み、自身の体さえ自由に変化できるようになった彼は、分が復讐を果たすにはまだ力が足りず、知識も足りないと考えて、まずはじめに森を飛び出した。
彼は数百年の後、自らを「エクスデス」–死を超えるものと名乗り、自身の求める力として「無」にたどりつくことになる。しかし彼は、それが彼自身を蝕んだ情報によってもたらされた意図的な帰結であったことに、永遠に気づくことはできなかった。